新春特別対談記事:人材開発部は経営にどう貢献できるか?
2017年、新年明けましておめでとうございます。新年の特別対談として、中央大学大学院客員教授楠田先生に貴重な機会を設けていただきました。ぜひ、お読みください。
■人材開発部門は、経営にどう貢献するか?
楠田氏:新年明けましておめでとうございます。2017年、新年を迎えるにあたり、人材開発部部門は経営にどう貢献するか?この視点がより一層求められてきます。
まず、毎年企業人事を数多く訪問するなかで感じていることは、人材開発部門は、ブームに乗りやすいということです。人事全体の中でも、外部で流行っているものに飛びつきやすいと言えます。例えば、外で広報的に、「これからは、360度評価だ!」と言われるとそこに飛びつきたくなる。また、「これからは、コーチングだ!」と言われるとそれに飛びつきたくなるわけです。悪いことだけだとはいいませんが、人材開発担当者自身が、外部で流行っていることにのめり込み過ぎると、それ自体が、経営や組織課題に本当に貢献することなのかどうか?ということが見えなくなることが多々あります。導入すること自体が目的化しやすくなるのです。人材開発部門が考えるべきは、企業のビジョンや戦略自体が、人材開発部門としてしっかりと腹に落ちているかがまずは大切な点です。島村さんはどう思いますか?
島村:そうですね。人材開発部門は、全社員教育を一方でやりながらも、より経営課題、組織課題に直結した人材開発部門を創っていくべきだと考えます。ただ、実際にどれだけの企業が実現できているのかというと結構少ないのではないかという印象です。そもそもそのような観点で考えるように教育がなされていない部分もありますし、人事と経営が離れている会社も多いのではないかと思います。
楠田氏:人材開発部門には、経営そのものや経営戦略などに感度が高い人がなぜか少ないんですね。まさに、そこにトランスフォーメーションが求められています。ビジョンや経営戦略を見据えながら、人材開発部門のビジョンは何なのか?人材開発部門はどこを目指しているのか?を考え、施策とリンクさせていくことがより必要になってきます。決して、新しい研修を外注でやること自体を目指しているわけではないと思います。ブームに乗るだけではなく、人材開発部門をしっかりと機能させていくことが極めて重要です。そういうことを問い直すことが2017年の新年を迎えるにあたり重要になってくると思います。
島村:たしかにそのとおりですよね。私もそうでしたが、人材開発担当者としては、流行りの外部研修にどうしても飛びつきたくなるものです。新しい取り組みをすること自体が、担当者自身のパフォーマンスを上げることだと誤解しやすい部分もあるかと思います。安易に飛びつかないで自身で考え抜くことが大切だと思います。
■教育ベンダーの活用の仕方を変えるには?
楠田氏:そうですね。人材開発を取り巻く各方面の教育ベンダーの状況を見ておりますと、当たり前ですが、彼らも生きていくために様々なプロモーションを企業にかけて来るわけです。人材開発担当として本質を見誤り、その外部ベンダーのプロモーションにハマりすぎてしまうと人材開発はユートピアで終わってしまんですよね。また、外部研修の実施の効果も冷静に見つめ直さなければならない時期に来ていると思います。研修の満足度は、教育ベンダー視点からすると、その満足度が高ければ別の企業にも売りやすくなるわけなので、人材開発部門としては、教育ベンダーの営業力強化のためのサポートになってはいないか?という視点を一方で持つことが大切です。流行りの研修実施分を予算計上して、外部に発注し、アンケートで研修の満足度を取るだけのスタイルは終焉していくはずです。ただし、そういった研修も、やらないよりはやったほうが福利厚生的にはいいかもしれないという側面はあります。ただ、それだけで終わっては絶対にいけないということを申し上げたい訳です。
島村:弊社も教育ベンダーであるわけですので、耳が痛い話です(笑)弊社では、研修の内製化の支援をしているわけですが、研修効果の視点を変えることが必要だと考えています。”社内人材の経験や知見を多くの社員に伝えていく”内製化の観点は、経営的に見ても理にかなった動きと言えます。全社リソースを有効活用した人材育成が内製化そのものなわけですが、経営サイドからみても内製化の動きはキャッシュアウトは少ないわけでして、間接的な人件費を活用してよい多くの社員に”実践的な研修”を提供していくことは、受け入りやすいことだと思います。拒む理由がないわけです。そのような観点での研修効果を内製化では狙っているわけでして、経営に貢献する一つの視点としておさえていただければと思います。
楠田氏:人材開発部という役割自体も、バーが上がってきています。本当に、当社の経営に貢献できているかどうかというレベルが求められてきています。私達は、ブームに踊らされることなく、本質を見続けることが大切です。つまり、経営戦略として達成したいビジョンに人材開発部門として貢献していくためには、どんなことを人材開発として実行していくべきなのかということをイノベーションしていくことが必要なわけです。それは必ずしも外注である必要はないわけです。外部でやるべきもの、内製でやるべきものを見極める目利きをつけることが今後の人材開発に求められているのです。
■HRBPとしての人材開発部門が為すべきことは?
島村:私は、人材開発部門は、より現場に出て行く必要があると思いますが、やはり現場に出て行かない、または、出ていけないことが多くあるように思います。多くの会社では、人材開発部門は少人数で回しているため、オペレーションで手一杯な印象もありますが、このあたりはどのように考えていらっしゃるのでしょうか?
楠田氏:人材開発部門がビジネスパートナーになっていないということですね。人材開発部門は、各事業ラインのSBUが、どういうビジョンをもって、どんな戦略をもってやっているのかということを日々ウォッチし続けることがとても大事になってきます。人材開発部門が、HRBPになるということです。結局のところ、行き着くところは、人材開発部門の役割ってなんだろうか?ということを見つめ直す時期になっているということです。2017年は、人材開発部の存在意義を問い続ける年だと考えます。島村さんはどのように考えていますか?
島村:そうですね。私自身は、内製化を支援するベンダーとして、人材開発部門がビジネスパートナーになるための動きを意識しています。具体的には、人事が現場を巻き込むうえで、主管部門の方々と現場ヒアリングに伺います。主管部門の方も弊社の島村が現場に行きたい、行きたいと言っていると伝えれば、現場に行く口実ができます。
また、弊社が経営課題に貢献するという意味では、キャッシュアウトを極力おさえながら、経営課題に貢献できる内製化の体制を人材開発部門と共に築くことを意識しています。経営理念の浸透、グローバル、次世代教育、リーダーシップ教育など、毎年異なる経営課題に、いちいちお金を使っていたらいくらあっても足りません。瞬時に経営課題に答える人材開発部門になるためには、現場を巻き込んだ社内講師を早期に育成し、経営課題に即した教育コンテンツを開発し、より多くの社員に提供できる体制を整えることが大切だと考えています。
本年も変わらず、内製化の切り口からみなさまの経営課題に貢献する人材開発部門の支援をして参りたいと思います。本年もどうぞよろしくおねがいいたします。
楠田氏:2017年、多くの人材開発部門が更に躍進されることを祈念しております。ありがとうございました。
島村:こちらこそ、ありがとうございました。
<プロフィール> 楠田 祐 中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授 戦略的人材マネジメント研究所 代表東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を10年経験。 2009年より年間500社の人事部門を6年連続訪問。 人事部門の役割と人事の人たちのキャリアについて研究。 多数の企業で顧問も担う。◇主な著書 「破壊と創造の人事」(出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン) ※2011年、Amazonランキング会社経営部門第4位獲得 「内定力2016~就活生が知っておきたい企業の『採用基準』」(出版:マイナビ) |